Interview :Pangrok Sulap
更新日:9月29日

_この度は”Sedekad Seni Merakyat”の出版おめでとうございます。はじめに”Sedekad Seni Merakyat”の出版と、この本の背景について教えてください。
"Sedekad Seni Merakyat"は、地元の活動家、研究者、実践者、アーティストなど15人の書き手によるエッセイをまとめたものです。アートとアクティヴィズムの分野において、パンクロック・スゥラップというコレクティブが10年にわたって行ってきた活動や、その理念、価値観を記録しています。
_この本にとっての重要なキーワード、いや、あなた達の活動においての重要なキーワードに”Seni Untuk Masyarakat”(共同体のためのアート)があると思います。そこでお聞きしたいのですが、あなたたちの思う”Masyarakat”というのは、具体的にどんなものでしょうか?そして、その”Masyarakatがなぜ人々にとって重要で大切であるのかを、ぜひあなたたちの言葉でお聞きしたいです。
私たちの文脈では、Masyarakat(社会)とは、コミュニティの生活を形づくる社会的・政治的なプロセスに関わる、ひとつの集合的な存在だと考えています。
だからこそ、パンクロック・スゥラップのアート実践を通して、社会の構造のなかで、もっと前面に押し出されるべきさまざまな領域を、アートによってつなげていきたいと考えています。たとえば、表現の自由、人権、文化、そしてその他にもたくさんのことがあります。

_この本は、あなたたちが制作した木版画のアート作品を紹介するだけでなく、あなたたちの活動についても沢山のことが書かれていました。その中には子どもたちへの教育についても書かれていました。私はあなたたちが教育に関わることに関して、ウクライナのアナキスト”Nestor Ivanovich Makhno”(ネストル・イヴァーノヴィチ・マフノ)や、メキシコ南部チアパス州で先住民組織”Ejército Zapatista de Liberación Nacional: EZLN”(サパティスタ民族解放軍)、彼らと近いものを感じます。(”Nestor Ivanovich Makhno”はロシア革命の時代に地域住民が一丸となった教育現場を作りました。その学校は教会からも独立し、国家からも独立した体制でした。また、”Ejército Zapatista de Liberación Nacional: EZLN”も、独自の教育プログラムを開発し、村で教育を行い、学校を建設しました。)どちらの学校も、地域のコミュニティが学校を運営しており、そして地域社会、とくに言語についてもとても尊重していました。そこで、あなたたちが教育に関わることについて、そして、教育と地域のコミュニティとの関わりについて、あなた達が大切にしていることをより詳しくお聞きしたいです。
すべての人には教育を受ける権利があり、それは学校だけに限られるべきものではありません。教育は、どこにいてもアクセスできるものであるべきです。
私たちは、子どもたちだけでなく、あらゆる年齢の人々を対象に、たくさんのアートプログラムや活動を行っています。そうしたアートプログラムを通して、アートをコミュニケーションの手段として使い、自分たちの物語を伝えたり、表現したりする方法を学んでもらいます。
コレクティブの活動のなかには、より周縁化されたコミュニティに焦点を当てたプロジェクトもあります。そこでは、彼らと一緒に作品をつくりながら、自立して持続できる経済を築くための取り組みを模索しています。
_ここまで共同体・教育についてお聞きしました。そして、この本で書かれている別のことのひとつに、環境問題があります。とくに森林伐採などは、ここ日本でも度々問題になります。東京では、都市の再開発で樹木の伐採が計画されたり、私のお店がある石川県能美市でも2022年に森林伐採による住宅地を増やす計画があり、抗議がありました。こういった環境問題について、あなたたちの取り組みや考えをお聞きしたいです。
森林伐採の問題は、ボルネオでは長いあいだ続いている問題です。この20年間で、この島では森林が大幅に失われました。
これは天然資源だけに影響を与えるものではありません。他の生態系にも影響を及ぼし、動植物の絶滅につながり、コミュニティにも大きな影響を与えています。
私たちの作品の多くには、環境についての意識を高めるメッセージが込められていて、公共空間をキャンペーンの場として使っています。
たとえば、パンクロック・スゥラップは、地域で行われるさまざまなイベントに積極的に参加しています。それらは、農家や漁師のお祭りから音楽イベントまで、アートとは直接関係のないものもあります。
また、環境活動家や先住民の活動家、NGOとも協力し、資金を集めるための活動や、キャンペーンのための作品制作も行っています。



_現在、あなたたちが取り組んでいることのひとつに水力発電プロジェクトがあります。この水力発電プロジェクトをはじめたきっかけと、水力発電プロジェクトが地域コミュニティにとって、なぜ重要かについて教えてください。
パンクロック・スゥラップというコレクティブが結成される前から、私たちは「V FOR VOLUNTEER」という名前で、サバ州各地でボランティア活動を始めていました。農村部でのこうしたボランティア活動を通して、そこで暮らす人々が直面している状況や問題を知るようになりました。現在でも、サバ州には電気を利用できない村が400以上あります。私たちはNGOのLightUp Borneoと幅広く協力し、サバ州の多くの地域に小規模な水力発電システムを設置してきました。
数年前からは、水力発電プロジェクトのための資金を集める活動も始めました。コミュニティと一緒に作品を制作し、それを販売することで、プロジェクトに必要な費用をまかなっています。

_また、メンバー個々が、現在取り組んでいる課題や、抱えている課題などはありますか?
コレクティブのメンバーは、それぞれに自分自身の活動や責任を抱えています。
私たちがよく直面する大きな問題は、コレクティブとしてもっと活動するための時間を見つけることです。コレクティブで行うプロジェクトの多くは、大勢の人手を必要とするからです。
_あなたたちが木版画を制作している姿を見ました。木版画はとてもエネルギッシュで、また細部にいたるまでとても美しい表現です!そして、その木版画を制作している姿には、音楽を奏で、歌い、木版画の上で足踏みをする姿をみました。まるで踊っているみたいで、とても楽しそうです!そして、それは宴や、祝祭のようにも見えます。そして、”Aramaitii”はとても良い言葉ですね!私が思う、重要なことの一つに、あなたたちの木版画の上で踊る人々には、国境や人種や年齢などの境界線がないということです。そして、”祝祭”のことを考えた時、祝祭のなかでは、既存の社会とは異なる組織の方法が生まれることがあります。あなたたちが木版画を作る時のこの光景は意図的なものでしょうか?そして、そういった境界線のない状況が生まれていることをどう思われていますか?
私たちは、違いを讃える必要があります。
このコレクティブとしての実践では、誰もが参加できるようにしています。実際、コレクティブのなかには正式なメンバー制度もありません。人種、宗教、国籍に関係なく、誰でもこのコレクティブの一員になることを受け入れています。

_あなたたちの木版画や音楽、そして活動を見ていると、まさにあなたたちは”PUNK”だと思います。そしてPUNKというのは音楽やファッションだけではないと思います。最後の質問になりますが、あなたたちが思うPUNKについてお聞きしたいです。そして、またメンバーで共有している考えや思想があるのでしょうか?
このコレクティブは、PUNKの思想にあるDIYの精神から大きな影響を受けています。それは私たちにとても近いものです。自分たちの力でやっていくこと、独立していること、そして誰かに縛られたり、誰かに依存したりしないこと。
_最後におまけでもうひとつ、とても私的な質問をあなた達に聞きたいです。みなさんが影響を受けたアーティストがいたら教えてほしいです!PUNKのアーティストでしたら、そのアーティストのオススメの曲もお聞きしたいです。
コレクティブのメンバーは、それぞれに異なる音楽の好みを持っています。
コレクティブを代表するものとして挙げるなら、私たちがよく歌っている、ジャカルタを拠点とするPUNKバンド、Marjinalの曲をおすすめします。「Rencong Marencong」や「Hukum Rimba」などです。

Pangrok Sulap
アーティスト、ミュージシャン、社会活動家など、多様なメンバーで構成されているアーティスト・コレクティブ”パンクロック・スゥラップ”。コレクティブ名のパンクロック(Pangrok)は音楽のジャンルであるパンク・ロック、そしてスゥラップ(Sulap)はサバ州の農民たちが使用する休憩小屋を意味し、組み合わせたもの。パンクロック・スゥラップはインドネシアのパンクバンド、マージナルを通じて知り合ったジョグジャカルタの木版画集団タリン・パディのレジスタンス活動に影響を受け、2012年以降は木版画を用いて地域コミュニティやボルネオ島の先住民族が直面する問題を描き、地域内外から注目を集めてきました。ラジカルさとローカリティが同居する名が表すように、彼らの放つメッセージは、アートを通じてボルネオ島北部サバ州のコミュニティを活性化させること、自分たちが持つ権利についての自覚を促し、貪欲からくる政治的退廃に声を上げ、複数の民族が結束するよう促しています。



