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Interview :Pangrok Sulap



_この度は”Sedekad Seni Merakyat”の出版おめでとうございます。はじめに”Sedekad Seni Merakyat”の出版と、この本の背景について教えてください。


”Sedekad Seni Merakyat”では、アーティスト・コレクティブ”パンクロック・スゥラップ”が芸術と社会活動の現場で10年以上にわたって残してきた活動、理念、価値を記録しており、また私たちの仲間である活動家、学者、研究者、アーティストなど、15人の地元作家による様々なエッセイを含めて、まとめたものになっています。


_この本にとっての重要なキーワード、いや、あなた達の活動においての重要なキーワードに”Seni Untuk Masyarakat”(共同体のためのアート)があると思います。そこでお聞きしたいのですが、あなたたちの思う”Masyarakat”というのは、具体的にどんなものでしょうか?そして、その”Masyarakatがなぜ人々にとって重要で大切であるのかを、ぜひあなたたちの言葉でお聞きしたいです。


私たちの視点では、masyarakat(共同体)は、コミュニティの生活を形作る社会的および政治的プロセスに参加する集団的な存在として見ています。したがって、”パンクロック・スゥラップ”は芸術的実践を通じて、表現の自由、人権、文化など、社会の構造内の向上させる必要のある様々な側面をアートによって繋げることを試みています。

_この本は、あなたたちが制作した木版画のアート作品を紹介するだけでなく、あなたたちの活動についても沢山のことが書かれていました。その中には子どもたちへの教育についても書かれていました。私はあなたたちが教育に関わることに関して、ウクライナのアナキスト”Nestor Ivanovich Makhno”(ネストル・イヴァーノヴィチ・マフノ)や、メキシコ南部チアパス州で先住民組織”Ejército Zapatista de Liberación Nacional: EZLN”(サパティスタ民族解放軍)、彼らと近いものを感じます。(”Nestor Ivanovich Makhno”はロシア革命の時代に地域住民が一丸となった教育現場を作りました。その学校は教会からも独立し、国家からも独立した体制でした。また、”Ejército Zapatista de Liberación Nacional: EZLN”も、独自の教育プログラムを開発し、村で教育を行い、学校を建設しました。)どちらの学校も、地域のコミュニティが学校を運営しており、そして地域社会、とくに言語についてもとても尊重していました。そこで、あなたたちが教育に関わることについて、そして、教育と地域のコミュニティとの関わりについて、あなた達が大切にしていることをより詳しくお聞きしたいです。


教育を受ける権利はすべての人にあり、それは学校だけに限られるべきではありません。教育はどこでも受けられるべきです。私たちは、子供たちだけでなく、あらゆる年齢層を対象とした多くのアートプログラムや活動を企画しています。これらのアートプログラムを通じて、私たちは一般の人々を招き、アートをコミュニケーションの手段として使い、自分のストーリーを伝え、表現する方法を学んでいただいてます。また、コレクティブのプロジェクトの中には、社会から疎外されたコミュニティに焦点を当てたものもあり、そこではコミュニティと私たちが一緒になってアート作品を制作し、自立した経済を築くための取り組みを模索しています。


_ここまで共同体・教育についてお聞きしました。そして、この本で書かれている別のことのひとつに、環境問題があります。とくに森林伐採などは、ここ日本でも度々問題になります。東京では、都市の再開発で樹木の伐採が計画されたり、私のお店がある石川県能美市でも2022年に森林伐採による住宅地を増やす計画があり、抗議がありました。こういった環境問題について、あなたたちの取り組みや考えをお聞きしたいです。


ボルネオ島では、森林伐採の問題が長年問題視されてきました。過去20年間で、島は劇的な森林の喪失を経験してきました。これは自然資源に影響を与えるだけでなく、他の生態系にも影響を及ぼし、動植物の絶滅につながり、地域社会にも大きな影響を与えています。

私たちの作品では、環境保護に関する多くのメッセージを伝え、公共のスペースをキャンペーンのプラットフォームとして活用しています。例えば、”パンクロック・スゥラップ”は、農民や漁師の祭りや音楽イベントなど、時にはアートとは関係のないさまざまな地域のイベントに積極的に参加しています。

また、環境保護活動家や先住民活動家、NGOとも協力し、資金調達やキャンペーン用にアート作品の制作をしています。



_現在、あなたたちが取り組んでいることのひとつに水力発電プロジェクトがあります。この水力発電プロジェクトをはじめたきっかけと、水力発電プロジェクトが地域コミュニティにとって、なぜ重要かについて教えてください。


”パンクロック・スゥラップ”が結成される前から、私たちは”V FOR VOLUNTEER”という名前でサバ州周辺でボランティア活動を行っていました。 こうした地方でのボランティア活動を通じて、私たちはこれらの地域の状況や問題に触れる機会を得てきました。

 現在でも、サバ州には電気の通っていない村が400以上あります。私たちはNGO”LightUp Borneo”と協力し、サバ州の多くの地域に小型水力発電システムを設置してきました。数年前からは、地域コミュニティの人々と一緒に作品を制作し、それを販売してプロジェクト費用を賄うことで、水力発電プロジェクトの資金調達を行う取り組みも始めました。



_また、メンバー個々が、現在取り組んでいる課題や、抱えている課題などはありますか?


コレクティブのメンバーはそれぞれが自分自身の仕事や責任を抱えています。私たちがよく直面する主な課題は、コレクティブとしての活動に充てる時間を確保することです。というのも、コレクティブ内のプロジェクトのほとんどは、多くの人手を必要とするからです。


_あなたたちが木版画を制作している姿を見ました。木版画はとてもエネルギッシュで、また細部にいたるまでとても美しい表現です!そして、その木版画を制作している姿には、音楽を奏で、歌い、木版画の上で足踏みをする姿をみました。まるで踊っているみたいで、とても楽しそうです!そして、それは宴や、祝祭のようにも見えます。そして、”Aramaitii”はとても良い言葉ですね!私が思う、重要なことの一つに、あなたたちの木版画の上で踊る人々には、国境や人種や年齢などの境界線がないということです。そして、”祝祭”のことを考えた時、祝祭のなかでは、既存の社会とは異なる組織の方法が生まれることがあります。あなたたちが木版画を作る時のこの光景は意図的なものでしょうか?そして、そういった境界線のない状況が生まれていることをどう思われていますか?


私たちは、違いを讃える必要があります。コレクティブの活動では、誰でも参加することを歓迎しています。実際、コレクティブ内には正式なメンバーシップはありません。人種、宗教、国籍に関係なく、誰でもこの集団の一員として受け入れる体制を私たちは整えています。



_あなたたちの木版画や音楽、そして活動を見ていると、まさにあなたたちは”PUNK”だと思います。そしてPUNKというのは音楽やファッションだけではないと思います。最後の質問になりますが、あなたたちが思うPUNKについてお聞きしたいです。そして、またメンバーで共有している考えや思想があるのでしょうか?


”パンクロック・スゥラップ”では、私たちは皆、それぞれ異なるバックグラウンドを持っています。そして、それを私たちは尊重しています。私たちにとってPUNKとは、自分らしくあることです。自由に生きるということです。このコレクティブは、PUNKのイデオロギーにおけるDIY精神から多大な影響を受けています。自立し、独立し、誰にも縛られたり支配されたりしないこと、それは私たちにとって非常に大切なことなのです。



_最後におまけでもうひとつ、とても私的な質問をあなた達に聞きたいです。みなさんが影響を受けたアーティストがいたら教えてほしいです!PUNKのアーティストでしたら、そのアーティストのオススメの曲もお聞きしたいです。


コレクティブのメンバーそれぞれが独自の音楽の好みを持っていますが、コレクティブを代表するものとして、ジャカルタを拠点とするパンクバンド、”Marjinal”の曲をオススメします。私たちもよく彼らの曲「Rencong Marencong」や「Hukum Rimba」などを歌っています。




 

Pangrok Sulap


アーティスト、ミュージシャン、社会活動家など、多様なメンバーで構成されているアーティスト・コレクティブ”パンクロック・スゥラップ”。コレクティブ名のパンクロック(Pangrok)は音楽のジャンルであるパンク・ロック、そしてスゥラップ(Sulap)はサバ州の農民たちが使用する休憩小屋を意味し、組み合わせたもの。パンクロック・スゥラップはインドネシアのパンクバンド、マージナルを通じて知り合ったジョグジャカルタの木版画集団タリン・パディのレジスタンス活動に影響を受け、2012年以降は木版画を用いて地域コミュニティやボルネオ島の先住民族が直面する問題を描き、地域内外から注目を集めてきました。ラジカルさとローカリティが同居する名が表すように、彼らの放つメッセージは、アートを通じてボルネオ島北部サバ州のコミュニティを活性化させること、自分たちが持つ権利についての自覚を促し、貪欲からくる政治的退廃に声を上げ、複数の民族が結束するよう促しています。





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